開発者の想い ― 熊本地震の体育館避難を、障がいを持つ母と経験して

開発者の想い ― 熊本地震の体育館避難を、障がいを持つ母と経験して

助かった命の次に、「守るべき尊厳」があった。

益城カメラ_倒壊した家屋/出典:熊本災害デジタルアーカイブ

あの日、私の家も被災しました。 最大震度7を観測した熊本地震。 自宅は被害を受け、私は障がいを持つ母を連れて、指定避難所である地域の体育館へと向かいました。

しかし、そこで待っていたのは、想像を絶する過酷な現実でした。

体育館はすでに多くの人で溢れかえり、プライバシーと呼べるものは段ボールの仕切り一枚だけ。 通路にまでパイプ椅子が並び、小さな子どもを抱いたお母さんが椅子の上で浅い眠りについている。 ペットを連れた人は中に入れず、自身の車で寝泊まりをしている。いびきに悩む人。眠れずに過ごす夜。

そんな極限状態の中で、障がいのある母は、周囲の視線にさらされ続けていました。 トイレに行くのも一苦労。着替えをする場所さえない。 「申し訳ない」「肩身が狭い」と小さくなる母を見て、私は3日と経たずに決断しました。

「ここにはいられない。家に帰ろう」

倒壊の危険が残る自宅の敷地に戻り、私たちは車中泊を選びました。 その時、自宅にあった頑丈なカーポートをブルーシートで囲い、即席の「部屋」を作りました。 そこで過ごした約半年間。 皮肉にも、体育館よりもそのカーポートの下の方が、母にとっても私にとっても、遥かに人間らしく、ストレスのない生活だったのです。

この原体験が、すべての始まりでした。

西原村_山西小学校避難所の様子
避難所に設置された仮設トイレ

出典:熊本災害デジタルアーカイブ

現場に行ける車屋だからこそ、見えた景色。

私は元々、4輪駆動車(4WD)を専門とする自動車販売・カスタムのプロフェッショナルです。 これまでも、警察や消防から依頼を受け、災害現場で活動するための特殊車両を数多く手がけてきました。

水深の深い場所へ乗り込んで人を救助したり、道なき道を進んで物資を届けたり。 「車屋」として、現場の最前線で命を繋ぐお手伝いをしてきました。

しかし、現場で支援活動を続ける中で、別の問題も見えてきました。 救助に向かう警察官やボランティアの方々自身の疲弊です。 彼らは被災地で活動した後、自分の車に戻り、狭いシートで丸まって眠ります。それを何日も続けるのです。

助ける側も、助けられる側も、もっと人間らしく休息できる場所が必要だ。 車のプロとしての経験と、被災者としての経験が、私の中で一つに繋がりました。これまで積み上げてきた膨大な経験とヒアリングを重ねたすべてを、この折りたたみ移動式カーポートシェルターに注ぎ込もうと決意しています。

単なる「避難用の箱」ではありません

災害が起きた直後、すぐに現地へ持っていけて、水と電気が確保されたプライベートな空間を作る。 私が開発したこの移動式シェルターには、あの熊本地震の避難所で感じた「無力感」への答えが詰まっています。

開発において、私が最も大切にした想いはこれです。

「着替えをするにしても、避難所ではできないからトイレに行って着替える。また、そのトイレも結局水が流れないからバケツで運んで流さないといけない。 現場に行かないと分からない苦労がたくさんあります。それをなんとかできないかな、と。

災害が起こってすぐ持って行けて、みんなが快適に……とまではいかなくても、ストレスがない生活を過ごせないか。 そういう形を考え抜いた、というのが今回開発に立った経緯になります」

衛生的なトイレが使えること。 電気が点き、エアコンで暑さ寒さをしのげること。 そして何より、家族だけで安心して眠れる壁があること。

私たちが提供したいのは、単なる設備ではありません。

泣いている赤ちゃんを抱くお母さんが、周りに気兼ねなくあやせる場所。 ペット連れの方が、家族として一緒に過ごせる場所。 そして何より、私の母のように、障がいを持つ方や高齢者が、心を痛めずに安心して過ごせる場所です。

「仕方ない」で済ませないために

衞藤正憲

災害はいつ起こるかわかりません。 だからこそ、「避難所は辛くて当たり前」「我慢するのは仕方ない」というこれまでの常識を変えたいのです。

平時はカーポート、趣味の部屋や休憩所として使い、生活を豊かにする。 そして有事は、そのままの形で被災地へ飛び、大切な人の命と暮らしを守る砦となる。

そんなフェーズフリーな備えが、当たり前の社会へ。

あの地震発生後。避難所の体育館で感じた無力感を、二度と誰にも経験させたくない。どうにかならないか。

その一心で、私は今日も開発を続けています。

写真は開発中の試作品を作ってもらっている熊本のネオスチール様にて。
この場をお借りして、感謝を申し上げます。

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